コンセプト

誰もが心から共有できる音楽は何処にあるのか・・・

音楽は人類固有の文化です。言語活動と同様、声や音を通して人間同士が合図を送ったり意志疎通するコミュニケーションの地平から高度な音楽芸術表現まで、音楽行為には様々な側面、広がり、水準があります。そのいずれもが、人間の精神活動にとって極めて重要な表現行為に違いはありません。21世紀には、人間の音楽表現の各側面を個別に切り離して考察するのではなく、人間にとって欠かせない活動として全体的に捉える視点が求められて来るでしょう。
今世紀のアカデミックな芸術音楽の領域では、19世紀から20世紀初頭までに西欧で完成された音楽様式をより発展させようと、世界中で多くの優れた才能が様々な試みを行いました。しかしながら、あまりにも完成し尽くされた感のある西欧音楽美意識への反動から、ただ雑音を擁護したり、いたずらに調性を否定する方向に偏り、作品の多くは人々の心に訴えるものにはならず、大衆の支持を得られる方向には発展しませんでした。人間は音楽を聴くとき、本来そこに調性を感知し心の平静を得ようとするものです。それは、音が持っている物理的な自然倍音の構造上からもあくまでも自然なことと言えます。

 

伝統音楽

一方、各地方・民族に伝わる伝統音楽は、長い時間を経て蓄積され、そこに生きている人々の生活、文化、嗜好と密着しています。ただ、各国の言語が異なっているように、それぞれの地方に方言があるように、それらの伝統音楽がそれぞれの文化と密接であるが故に、安易には民族、国境を越えて共有されにくいのは致し方ない事といえます。「誰もが心から共有できる音楽」を探すこととは、人間一人一人が持っている感性、文化的背景を尊重した上で、誰もの心に訴える音楽、誰もが発揚できる音楽の可能性について考えることです。12平均律、和声的音楽技法が現代人類が獲得した最も優れた音楽表現形式とみなされ先進諸国を中心に流布しているとしても、そのことで短絡的に”音楽に国境は無い”と考えてしまう西欧音楽中心の楽観主義には注意しなければなりません。世界に普遍している音楽の多くは、西欧音楽とは別の価値観、豊かさの上に成り立っています。
また、音楽産業が作り出す、歌謡曲、ポップス、あるいはWorld Musicという民族的な味付けをされた音楽が人々に受け入れられているとしても、それは一部の音楽専門家が多数の聴衆に娯楽商品を提供するという一方通行の関係でしかなく、私達の探している「誰もが心から共有できる音楽」とは全く別のコンテクストです。何故なら、音楽は、人間の精神活動にとって極めて重要な本質的な表現行為だからです。私達は、誰もの心の中にある音楽表現欲求を抑圧するのではなく、いかにして音楽行為全般を健康な人間関係の中に取り戻すことが出来るか、ということを模索しているのです。

 

Bamboo Orchestraの竹構想

アジアに源を発し、今では中南米、インド、アフリカ、ヨーロッパでも生育している類い希な植物、「竹」。植物学上は草の仲間でありながら、木の一種と見まごう太さ、高さ、強度と弾力性を兼ね備え、その用途は建築材料、家具、家庭雑貨品から、薬、紙、食品と広範囲です。竹は草であるが故に成育が早く、伐採が自然破壊に繋がらないことが、自然と人間の共生を考える21世紀には殊に重要な素材です。その竹を使って楽器を作ることは、古くからアジア各地で行われ、各民族の音楽に独特な音色を提供してきました。竹は幹の中が空洞であるためそのまま共鳴管となり、楽器の素材としては申し分なく、様々な種類、音色の管楽器、打楽器が容易に作り出せます。
Bamboo Orchestraの構想は、新しい世紀に向けて、竹という自然の素材から引き出される「音の響き」そのものから、誰もが心から共有できる音楽を構築する試みです。人間一人一人が、ひとつの自然の恵み、竹・竹の響きと謙虚に向き合うとき、個々人の属する民族も、個性も、音楽知識の多寡も、生まれる音楽がどのジャンルに属するかなどということもほとんど重要ではなくなります。そこに、音楽という行為を通して自然と人間の関係、人間同士の新しい関係が展望されてきます。

 

Bamboo Orchestraの展開

Bamboo Orchestraとは、ひとつの活動の総称です。世界各地にプロ並びにアマチュアのBamboo Orchestraが誕生し、音楽表現活動として発展して行くでしょう。また、自分で作った楽器を使って音楽を奏でることは、大人にとっても大いなる喜びですが、殊に子供達の音楽情操教育に成果を発揮しますし、竹という自然の素材を扱うことで、自然と人間の共生関係を総合的に考える端緒になります。教育現場でのBamboo Orchestra活動も一方の重要な柱となって来るでしょう。また、竹楽器の心休まる穏やかな音色は、精神障害者の音楽療法にも役立つと確信します。この分野での展開は精神科医、音楽療法士との連携が待たれます。

矢吹 誠